「どうです、佐々さん。千二少年は、丸木につれられて行ったんだが、ここで見かけなかったでしょうか」
 先生はどこまでも教え子の千二のことを、心配しているのだった。これも先生なればこそで、まことにありがたいことであった。
 佐々刑事は、首を左右に振って、
「見かけなかったねえ」
「いないのでしょうか。一体、千二少年はどうしたんだろうな」
 先生の目は、憂いに曇った。
「千二の行方も捜さなければならんが」と佐々刑事は言って、
「わしが課長から命ぜられていて、まだ果してないのは、蟻田博士が去年の大地震以来、どうなったということだ。君はその後、蟻田博士と会ったことがあるかね」
「いや、どういたしまして……」
 と、新田先生は首を振って、
「何しろ私はあの大地震以来、つい先ごろまで、病院のベッドに寝ていたんですからねえ」
「ふん、なるほど。考えてみればあの大地震というやつが、我々の仕事をどのくらい邪魔したか知れない。いや、こんなぐちを、今言ってみても仕方がないがね。まあいいや。どんな災難であろうと、困ったことであろうと、もうおどろくものか」
 佐々刑事は、立上った。

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